米国の倉庫・輸送セクターによるCO₂排出量は合計で6億トンを超え、これは同国のCO₂総排出量(52億4400万トン)の11%以上を占めています。さらに、eコマースの拡大により、過去20年間で倉庫の規模は拡大し続けており、その結果、施設の照明や温度管理のためにさらなるエネルギーが消費されています。増大する倉庫の環境負荷に、企業はどう対応しているのでしょうか?この問題を解決する技術の1つとしてAIが注目され、このAIの活用が、リソースの最適化、廃棄物の削減、持続可能性目標の達成に貢献しています。
本記事では、AIが倉庫の環境負荷軽減にどのように役立っているかを、市場の動向や実際の事例を交えて紹介します。
AIによる経路最適化:エネルギー消費の削減
従来の倉庫業務では、ピッキングや補充作業の経路が非効率的であることが多く、余分なエネルギーを消費する原因になっています。AIアルゴリズムは倉庫のレイアウトを分析し、タスク実行に最適な経路を導き出すことで、作業員やロボットの移動距離を大幅に短縮します。この最適化により、エネルギー消費量とCO₂排出量を削減できます。(出典:Medium)
さらに、物流企業もAIを活用してサプライチェーン全体の効率化を図っています。たとえばUPSでは、燃料消費を最適化してCO₂排出量を削減する配送ルートを計画するため、AI搭載のルート最適化ツールを採用しています。これにより、大幅なコスト削減と環境負荷の軽減を実現しています。(出典: Hyperlearn)
持続可能な在庫管理:廃棄物の最小化
複数の拠点が密接に連携しているサプライチェーンでは、在庫管理も複雑化し、過剰な安全在庫、不確実な需要予測、需要の変動など、さまざまな課題が生じます。過剰在庫は、資材調達・輸送・生産・保管によるエネルギーやリソースの過剰使用を招くだけでなく、最終的に消費されなければ廃棄される可能性があるため、財務面だけでなく環境面でも大きな問題となります。こうした廃棄を最小限に抑えるための方法の1つが、AIを活用した在庫計画・最適化システムの導入です。たとえばSAP IBPは、高精度な需要予測で最適な在庫レベルを維持し、顧客のニーズに応えつつ無駄を削減します。その結果、廃棄物とコストの削減、生産効率の向上、そしてより環境に優しいプロセスが実現します。(出典:Medium)
AIを活用したロボティクス:エネルギーの効率化
倉庫や物流センターの大型化、eコマースの普及による注文の複雑化に伴い、倉庫内での移動距離が長くなり、配送業務を遂行するために作業員がこなすべきタスクも増加しています。これに対し、自律走行ロボット(AMR)は人間が操作するフォークリフトよりも効率的に倉庫内を移動できるため、ピッキングや配置作業に必要な移動回数とエネルギー消費量を削減できます。実際Amazonは、倉庫での効率向上とコスト削減を目的に、75万台を超えるAMRと数万台のロボットアームを導入しています。(出典: Amazon News)
予知保全:設備の寿命延長
メンテナンスが不十分なために発生した故障により、まだ使用可能なはずの倉庫設備が廃棄処分となってしまうケースも少なくありません。AIを活用した予知保全では、機器から取得したリアルタイムのセンサーデータを分析して故障の兆候を事前に予測し、設備の寿命を延ばすことができます。定期的な点検を行う従来の予防保全とは異なり、設備の状態に応じてメンテナンスを実施できるため、ダウンタイムの最小化、寿命の延長、修理コストの削減、不要な部品交換の回避が可能になり、廃棄物を削減し、設備稼働率を向上させることができます。(出典:Medium)
今後の展望: AIとサステナビリティの新たな潮流
世界各地でサステナビリティへの取り組みが義務化されつつあり、消費者も購入時に持続可能な企業かどうかを重視するようになっています。そのため、多くの企業が目標達成と規制遵守を支援するソリューションを模索しています。(出典: AutomateLogix)
AIの活用は、持続可能な倉庫運用を支える重要な推進力となっています。以下に具体例を挙げます。
- 自律走行車両の活用拡大:自動運転トラックやドローンは、輸送に伴う排出量削減に大きく貢献すると期待されています。(出典:AutomateLogix)
- ブロックチェーンとの統合:AIとブロックチェーンを組み合わせることで、サプライチェーン内の透明性が向上し、責任ある調達や材料追跡が可能になります。(出典 :AutomateLogix)
- リアルタイムデータの活用:高度なAIツールにより、リアルタイムデータに基づく即時の意思決定が可能になり、廃棄物削減やリソース最適化がさらに促進されます。(出典: AutomateLogix)
- 循環型物流への注力:今後の物流モデルでは、廃棄物を最小限に抑え、再利用を最大化する循環型プロセスの導入が重視されるでしょう。(出典:AutomateLogix)
まとめ
倉庫業務にAIを統合することで、効率性と持続可能性を両立させる新たな道が拓けます。ルートの最適化、正確な在庫管理、省エネ型ロボティクスの活用、予知保全の実施などにより、CO₂排出量と運用コストを大幅に削減できます。実際にAI駆動ソリューションの採用が加速しており、テクノロジーの進化とサステナブルな取り組みの両方を実現する環境に優しい倉庫運用が期待されています。
あなたの倉庫は未来に備えていますか?
Ingwersen, W. AND M. Li. Supply Chain Greenhouse Gas Emission Factors for US Industries and Commodities. U.S. Environmental Protection Agency, Washington, DC, EPA/600/R-20/001, 2020